タイムアップのホーンが鳴った後、ターンオーバーしたボールを真横に蹴り出して試合を終わらせたのは、前半の最後と同じくサントリーサンゴリアスのSH田原だった。FWの、それも特にラインアウトでの優位を活かしたサントリーが、今季好調だった三洋電機ワイルドナイツの連勝を最後に止めてマイクロソフトカップを制し、初となるトップリーグ王者に輝いた。
この日は秩父宮にも強い北西風が吹き荒れていた。前半風下のサントリーは、自陣深くでも簡単には蹴らず、少しだけズラした所に作るラックを連取しFWがボールをキープ、不利な時間を消費し続けた。そしてHB団や安定したフィールディングを見せたFB有賀が、距離は出ないものの効果的なキックでタッチを切り、自信を持っているラインアウトにする。相手ボールであっても、LO篠塚をライン前方に立たせてプレッシャーをかけ、三洋のミスを誘う。この試合でサントリーが上げた2つのトライは、そのラインアウトでの優位を象徴していた。1つは前半17分、三洋ボールのラインアウトで、三洋ジャンパーの誰もが合わせられなかったボールを最後尾にいたNO8竹本が直接キャッチ、そのまま一気にインゴールを陥れたもの。もう1つは後半20分、確実にキャッチしたラインアウトから出たボールを、SO野村のインサイドで受けた切り札WTB小野澤が三洋WTB北川、FB田邉の間を駆け抜けて中央に上げたものだった。先週の準決勝とはうって変りBKへの展開を封印、自身の強みを有効に使い相手の強みを消したサントリー快心の試合運び。陰のマンオブザマッチは篠塚だろう。
三洋は、今季何度もトライに結び付けて来たラインアウトからの多彩なBKムーヴを、ついに1つも披露できなかった。田邉や北川が試みたカウンターアタックやSH田中のラックサイド突破がチャンスになりかけたものの、結局トップリーグ随一の得点力を誇るチームが上げられたのは、PKからの速攻をNO8龍コリニアシが仕留めた前半の1トライだけだった。
しかしまだシーズンは終わらない。この2チームにも、1週空けた3/8(土)、日本選手権準決勝が待っている。(米田太郎) |
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宮本監督(右)、榎本主将
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三洋電機ワイルドナイツ 10-14 サントリーサンゴリアス(2月24日)
◎三洋電機ワイルドナイツ
○宮本勝文監督
「今日の試合は、簡単に言うと、もうちょっとラグビーしたかったなあ。ラグビーさせてもらえなかった、サントリーさんの上手さが上でしたね。小野澤選手のトライの時、ディフェンスミスが起こったのは悔やまれます。ただ、ああいう展開でも選手たちは頑張ってくれたと思います」
──今日の展開は。
「ある程度予想していました。狭いところをゴリゴリ行くラグビーを、サントリーさんはここ数試合していましたので、こういう展開になると。ゆったりしているので、あまり獲られることはないと思っていましたが。ラインアウトで自分たちのマイボールを取れなかったのが痛かったですね。ラインアウトのミスは、取り決めがあったのですが、違う選手が違うところへ行くというミスでした。やっぱり、ほんのちょっとしたミスで決まった試合でした」
──全勝で来たことでプレッシャーは。
「特にないですね。まあ、シーズン中と同じペースで臨みました。サントリーさんとは、シーズン中も紙一重でしたし、いつもどおりですね」
○榎本淳平主将 「マイクロソフトカップはこういう結果になりましたが、まだ日本選手権が残っています。気持ちを切り替えて臨みます」
──逆転トライの場面は。
「後半も気持ちは切れなかったし、小野澤選手のトライも一瞬オブストラクションかとも思いましたが、やはり、入って来たコースがうまかったと思います」
──トスの結果は。
「サントリーさんが勝ってエリアを取りました」
──『たら、れば』は。
「風上でもう少し点数を取っておければよかったです。ラインアウトであそこまで苦戦するとは思っていませんでした」 |
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清宮監督(右)、山下主将 |
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◎サントリーサンゴリアス
○清宮克幸監督 「サンゴリアスはトップリーグ5年目にして初のチャンピオンになりました。今日の試合は新しい部分とサンゴリアスが積み上げてきた過去の歴史とで勝った試合でした。三洋さんは今季、快進撃をしてきたチームですが、適当な言い方ではないが、たまたまやったら調子が良かったチームと平素から勝ちたいと思ってやってきたチームとの違いでしょうか。良いラグビーができれば、自分たちのラグビーができればよいというところに重きを置かず、ただ勝ちたいというチームとの。それを去年の負けで反省した結果が今日の勝利だと思います。そこのこだわりの差です。三洋さんもいつもよりアグレッシブにアタックしてきましたし、攻められました。リーグ戦で差があったスクラムもFWの差もきっちり詰められて、本当に素晴らしいチームだと思います。そういう相手に勝てて素直に嬉しいです。こいつ(と山下キャプテンを指して)、2年前のシーズンにひざの皿を割る大怪我をしたんです。おそらく何人ものドクターが、もうラグビーはできないと診断したくらいのひどい怪我です。そこから復活して、グラウンドに立っている姿と奥さんの姿を思ってね‥‥。何しろ仲人をやったものですから(笑)。奇跡の復活です(と、語る清宮監督の眼に熱いものが)」
──今日は、自分たちのラグビーでないということか?
「自分たちのラグビーとはもっとボールを動かしたいラグビーですね。一か八かのラグビー。見ているお客様がワクワクする、パス、ムーブ、ステップをやりたいですね。自由にやりたいラグビーです。だが、そういうラグビーやって勝てるかというと勝てない。自分たちのラグビーをやろうとするときに弱さがあるんです」
──結果にこだわるということか?
「結果にこだわるのは去年と同じです。去年の決勝前に、僕も選手も不安だった。まったく見えなかった。1年経って、今日の試合は完全に自信を持って、僕も選手も勝てると確信していました。そういうチーム作りをしてきましたし、選手が自然にそう思ってきたということです」
──頂点の気持ちは?
「まだ、噛みしめていません。ひとまず、自分の仕事を達成できたという小さな、小さな満足感だけです。これからいろんな人に会ってからだと思います」
──前半、風下を取ったのは?
「風はこの時期、ずっと吹くんです。ほとんどのチームが風上を取る。それなら最初から風下を取っていくほうが自分たちの力をだせるかな、と。僕は前半、風上の方がいいですけれどね(笑)」
──1年目と今年との違いは?
「チームでファイナルラグビーとシーズン当初から言っていますが、ファイナルで力を出す、信頼されるプレーヤーがいるんです。去年はそれができない選手がいたということです。チーム作りとして、この日に力を出せるようにしようと。今日の選手はそれを克服した選手です」
──勝ちにこだわったからモール?
「いえいえ。サントリーはモールにこだわるチームじゃありませんが、三洋さんのモールが弱いと分かったからこだわっただけです。三洋さんが本気でモールを崩しに来たならバックスに回したでしょうね。サントリーは相手の弱いところを上回るものを前面に出しただけです。案の定、FWはモールに入ってきませんでしたね」
──1トライ獲られると去年のように逆転だったが?
「安心していました。自分たちの強みをしっかり持っているということ。まず、そこがベースで試合を組み立てて、いつでもそこに戻れるということ。危ないと思えた場面はほとんどありませんでした。ギリギリでない懐の深いディフェンスをしていましたし。フルバックがタックルに行くのが目安です。今日、何回有賀がタックルした?(と、大悟キャプテンに聞く。『3回くらい』との返事を受け)そういうことです」
○山下大悟主将
「昨年のこの日にロスタイムで逆転されて、今シーズンの入りでは大方の人にサントリーが断トツ優勝候補と言われてきましたが、コーラさんに負け、三洋さんにも負け、浮き沈みのあったシーズンでした。部員一人ひとりが努力してきたなかで、最後にチームが一つになれたと思います」
──手ごたえは?
「前半は10対7くらい?風下でペナルティで取られた後、まあ3点くらいで前へ出られるならいいよなと言っていました。(清宮監督が付け足して)『あれ、ガッチガッチだったよな。前半は選手が緊張していて、あれで、3点取られて、スッと落ち着きましたね』」
──1週間の練習は?
「週の頭で、浮き彫りになった課題がスムーズになって、こういう状況で意思統一できました」
──三洋は予想以上だったか?
「この前の試合は出ていないんですが、三洋さんはキックの使い方が上手く、非常にバランスの取れた素晴らしいチームという印象です。ただ、練習でやってきた予想内で、前半、堅く守れたので後半は危ないと思う場面はありませんでした」 |